


大手IT企業、Sansan、HubSpot Japanを経て2024年に株式会社UniteXを創業。数百社のCRM導入・業務設計を経験する中で「ツール導入だけでは組織は変わらない」という課題に直面し、AI×業務プロセス最適化サービス「AI Flow」を立ち上げ。業務理解・ビジネス理解・CRM・AIの4軸で、企業の業務プロセスそのものを再設計する支援を行っている。
利用者の自宅を訪問してアセスメントを行い、課題を分析し、ケアプランの原案を作成する。サービス担当者会議を開き、計画書を確定させ、毎月モニタリングに訪問し、記録を書き、必要があれば計画を見直す──。
ケアマネジャーの仕事は、利用者一人ひとりの生活を支える極めて専門性の高い業務です。しかし現場のケアマネジャーに「今、一番時間をかけている業務は何ですか?」と聞くと、返ってくるのは決まってこの答えです。
「書類作成です。パソコンに向かっている時間が一番長い」
ケアプランとは、要介護認定を受けた利用者に対して、どのような介護サービスをどの頻度で提供するかを定めた「居宅サービス計画書」のことです。ケアマネジャー(介護支援専門員)がアセスメントに基づいて作成し、利用者・家族の同意を得た上でサービス提供の根拠となります。作成・更新は介護保険制度上の義務であり、省略することはできません。
この記事では、ケアプラン作成の業務プロセスを工程ごとに分解し、どこにボトルネックがあるのかを明らかにします。
ケアプラン作成は、単に「計画書を書く」だけの業務ではありません。利用者の状態を把握し、課題を分析し、サービスを組み立て、関係者と合意形成し、実施後のフォローまでを一貫して行うプロセスです。分解すると、次の6工程に整理できます。
ケアプラン作成の出発点は、利用者の自宅を訪問して行うアセスメントです。厚生労働省が定めた「課題分析標準項目」に基づき、利用者の身体状況、認知機能、生活環境、家族関係、本人の希望など23項目を聴き取ります。
ここがケアプラン作成の中で最も重要な工程です。利用者の「困っていること」だけでなく、「本当はどう暮らしたいのか」という意向を丁寧に聴くことで、その人に合ったケアプランが作れます。
しかし現実には、訪問にかけられる時間は限られています。移動時間を含めると1件あたり1.5〜2時間。35件の担当を持つケアマネジャーが、全員に対して十分なアセスメントを行う時間は、物理的に足りていません。
アセスメントで得た情報をもとに、利用者の生活課題を抽出し、優先順位をつけます。「入浴が一人ではできない」「買い物に行けない」「服薬管理ができていない」──こうした課題を、ICF(国際生活機能分類)の枠組みで整理し、「生活全体のどの部分に支援が必要か」を構造的に分析します。
この工程は高い専門性を要する知的作業ですが、実際にはアセスメントの直後に事務所に戻ってすぐ取りかかれるとは限りません。次の訪問予定が詰まっていたり、電話対応が入ったりして、記憶が鮮明なうちに分析を完了できないことが少なくありません。
課題分析の結果をもとに、居宅サービス計画書(第1表〜第3表)を作成します。
この「原案作成」が、ケアマネジャーのデスクワークの中で最も時間がかかる工程です。利用者の課題とサービスの対応関係を整理し、目標を設定し、具体的なサービス内容と頻度を記載する。1件あたり1〜2時間かかることも珍しくありません。
さらに、介護報酬の算定要件との整合性も確認しなければなりません。サービスの組み合わせによっては算定できない加算があったり、区分支給限度額を超えていないかの確認が必要だったり。純粋な「計画づくり」だけでなく、制度知識に基づいたチェック作業が常に伴います。
ケアプランの原案ができたら、利用者・家族、各サービス事業所の担当者を集めてサービス担当者会議を開催します。原案の内容を共有し、各専門職の意見を聴き、必要に応じて修正を加え、合意形成を行います。
会議そのものは30分〜1時間程度ですが、開催にかかる調整業務が膨大です。各事業所のスケジュールを確認し、日程を調整し、会議の案内を送り、当日の資料を準備し、会議後に議事録を作成する。この調整業務だけで1件あたり1時間以上かかることがあります。
ケアプランに基づいてサービスが提供されている利用者に対して、少なくとも月1回の訪問によるモニタリングが義務づけられています。サービスの実施状況、利用者の状態変化、目標の達成度を確認し、記録を作成します。
35件の担当を持つケアマネジャーにとって、毎月35回のモニタリング訪問は極めて重い負担です。1件あたり訪問30分+移動30分+記録作成30分で計1.5時間。35件で月52.5時間。月の稼働日を20日とすると、1日あたり約2.6時間がモニタリングだけで消費されます。
モニタリングの結果、利用者の状態が変化したり、目標が達成された場合は、ケアプランの見直しを行います。また、要介護認定の更新時期(通常6ヶ月〜3年)には、改めてアセスメントからやり直す必要があります。
35件の担当のうち、毎月数件は認定更新や状態変化によるプラン見直しが発生します。見直しの場合は、工程1のアセスメントからやり直しになるため、通常のモニタリング業務に加えて、新規作成と同等の工数が追加されます。
上記6工程の所要時間を整理すると、ケアマネジャーの業務負荷の構造が浮かび上がります。
| 工程 | 所要時間(1件あたり) | 月間負荷(35件) | ボトルネック |
|---|---|---|---|
| アセスメント | 1.5〜2時間(訪問+移動) | 新規・更新時のみ | 訪問時間の確保、聴取項目の多さ |
| 課題分析 | 30〜60分 | 新規・更新時のみ | 訪問後すぐに着手できない |
| ケアプラン原案作成 | 1〜2時間 | 新規・更新時のみ | 書類作成の工数、制度整合性の確認 |
| 担当者会議 | 1〜2時間(調整含む) | 新規・更新時のみ | 日程調整・資料準備・議事録作成 |
| モニタリング | 1.5時間(訪問+移動+記録) | 約52.5時間 | 全件月1回訪問の義務、記録作成 |
| プラン見直し・更新 | 3〜5時間(アセスメント〜原案) | 月3〜5件発生 | 通常業務に追加で発生する |
モニタリングだけで月52.5時間。これに加えて、毎月3〜5件のプラン見直し(1件あたり3〜5時間)が発生すると、月9〜25時間が追加されます。合計で月60〜80時間──これは月の総稼働時間(160時間)の40〜50%に相当します。残りの半分で新規相談対応、給付管理、各種連絡調整、研修、事務所の運営業務をこなさなければなりません。
ケアマネジャーの業務時間の半分以上がデスクワーク(書類作成・入力作業)であるというデータは、介護労働安定センターの実態調査でも示されています。しかし問題は「書類が多い」という表層的なことではなく、もっと構造的な原因があります。
アセスメントで聴き取った情報は、課題分析表に整理し、それをケアプラン第1表の「利用者の意向」に書き写し、第2表の「ニーズ」に再構成し、モニタリング記録にも関連情報を転記する。同じ情報が複数の書類に形を変えて繰り返し記載されます。
介護ソフトを使っていても、この転記作業が自動化されているケースは多くありません。ソフト上で「アセスメント情報を第2表に自動反映」する機能があっても、表現の調整や文脈に合わせた修正が必要で、結局手作業になるのが実態です。
介護保険制度では、サービス提供の根拠をすべて書面で残すことが求められます。運営基準減算を避けるために、ケアマネジャーは記録の「量」を確保せざるを得ません。
モニタリング記録には「サービスの実施状況」「利用者の満足度」「目標の達成度」「今後の方針」を漏れなく記載する必要があります。35件分の記録を毎月作成するプレッシャーの中で、記録の質よりも「書いたかどうか」が優先されてしまうのは、構造的に避けがたい問題です。
ケアプランの原案作成は、利用者の課題に対して適切なサービスを組み合わせる専門的な作業です。しかし、「この課題にはこのサービスの組み合わせが有効」というナレッジは、ベテランのケアマネジャーの経験と勘に依存しています。
新人ケアマネジャーが原案作成に時間がかかるのは当然ですが、ベテランでも「似たような利用者のプランを過去に作ったはず」と記憶を頼りに過去ファイルを探す──という非効率が日常的に発生しています。事業所全体でナレッジが共有・再利用される仕組みがないのです。
ケアプラン作成の各工程に対して、AIがどのように業務を変えるのかを具体的に解説します。重要なのは、AIが「ケアプランを勝手に作る」のではなく、ケアマネジャーの専門的判断を支援する道具として活用するという視点です。
訪問時の聴き取り内容を音声入力やタブレットで記録し、AIが課題分析標準項目の23項目に自動で分類・構造化します。「手書きメモ→事務所に戻って入力」という二度手間がなくなり、訪問先でアセスメントを完了できます。
音声認識技術を活用すれば、利用者との会話をリアルタイムでテキスト化し、重要なキーワード(「転倒」「服薬忘れ」「一人で入浴できない」等)を自動抽出することも可能です。ケアマネジャーはメモに集中する代わりに、利用者の表情や生活環境の観察に集中できます。
構造化されたアセスメント情報をもとに、AIが課題の抽出とケアプラン原案のドラフトを自動生成します。「入浴に関する課題」→「訪問介護(入浴介助)週2回」→「3ヶ月後に見守りで入浴できる」という課題・サービス・目標の対応関係を、過去の類似ケースを参照しながら提案します。
ケアマネジャーは、AIが生成した原案を確認・修正するだけ。ゼロから書く時間が大幅に短縮されます。特に第2表(ニーズ・目標・サービス内容)の作成が効率化されることで、原案作成の時間が1〜2時間から20〜30分に短縮される可能性があります。
担当者会議の日程調整は、各事業所の空き状況を確認して候補日を提示する作業です。AIが各事業所のスケジュールを統合し、最適な候補日時を自動で提案。参加者への案内送信まで自動化できます。
会議の議事録についても、音声認識で会議内容を記録し、AIが要点を整理した議事録のドラフトを生成。ケアマネジャーは内容を確認・修正するだけで、調整・記録にかかる時間を半分以下に削減できます。
毎月のモニタリング訪問後の記録作成は、AIが最も大きな効果を発揮する工程です。
35件分のモニタリング記録を毎月手作業で書いている時間が、AIの支援で記録作成時間を1件あたり30分から10分に短縮できれば、月間で約12時間の削減になります。
ケアプランの作成時に、区分支給限度額の超過、算定要件を満たさないサービスの組み合わせ、運営基準との不整合などを、AIがリアルタイムでチェック。介護報酬改定があった場合も、AIが最新の基準に基づいて自動で検証します。
制度改定のたびに「この組み合わせは算定できるのか」をマニュアルで確認する手間がなくなり、ミスの防止と作業時間の短縮を同時に実現できます。
担当35件のケアマネジャー1人を想定して、AI導入前後の業務時間のインパクトを試算します。
| 指標 | Before(従来) | After(AI導入後) | 改善幅 |
|---|---|---|---|
| ケアプラン原案作成時間 | 1〜2時間/件 | 20〜30分/件 | 約70%削減 |
| モニタリング記録作成時間 | 30分/件(月17.5時間) | 10分/件(月5.8時間) | 約67%削減 |
| 担当者会議の調整・記録 | 1〜2時間/件 | 30分〜1時間/件 | 約50%削減 |
| デスクワーク比率 | 業務時間の50%以上 | 業務時間の30%程度 | 20ポイント改善 |
| 利用者と向き合える時間 | 1日2〜3時間 | 1日4〜5時間 | 約1.7倍に増加 |
デスクワーク比率が50%超から30%程度に下がるということは、ケアマネジャーが「利用者の自宅に足を運ぶ」「利用者の話をじっくり聴く」「多職種と顔を合わせて連携する」──本来やるべき専門業務に集中できるということです。AIは書類作成の代行ではなく、ケアマネジャーが専門職として力を発揮するための環境を整えます。
ケアマネジャーの専門性は、利用者の生活課題を見立て、適切なサービスを組み合わせ、多職種と連携しながら利用者の自立を支援することにあります。アセスメントの場で利用者の表情を読み、家族の不安に寄り添い、言葉にならないニーズを汲み取る──これは、どれだけAIが進化しても代替できない、人間にしかできない仕事です。
しかし現実には、その専門性を発揮する時間が、書類作成に侵食されています。
「本当はもっと利用者さんの話を聴きたい。でも、次の訪問までにモニタリング記録を仕上げないといけない」「アセスメントをしっかりやれば良いプランが作れるのに、時間が足りなくて表面的な聴き取りで終わってしまう」──多くのケアマネジャーが感じているこのジレンマは、個人の努力では解消できない構造的な問題です。
業務プロセスの設計を変えること。書類作成にかかる時間をテクノロジーの力で圧縮すること。そうやって生まれた時間を、利用者と向き合う本来の専門業務に充てること。この順番で考えることが、ケアマネジャーの業務改善の出発点です。
AIは「ケアプランを完成させる」のではなく、「ドラフトを生成する」役割です。アセスメント情報に基づいた原案をAIが作成し、ケアマネジャーが利用者の個別性を踏まえて修正・加筆するフローにすれば、むしろアセスメントに時間を割けるようになるため、より利用者に寄り添ったプランが作れる可能性があります。
現行制度では、ケアプランの作成責任はケアマネジャーにあります。AIはあくまで作成支援ツールの位置づけであり、最終的な判断と署名はケアマネジャーが行います。厚生労働省も「AIを活用したケアプラン作成支援」を推進する方針を示しており、制度上の問題はありません。重要なのは、AIが作ったプランをそのまま使うのではなく、ケアマネジャーが専門的見地から確認・修正するプロセスを確保することです。
むしろ小規模事業所ほどメリットが大きいです。ケアマネジャー1〜3人体制の事業所では、一人が休むと残りのメンバーに業務が集中します。AIによる記録・書類作成の効率化は、少人数体制の事業所が業務品質を維持するための強力な支援になります。月額数万円程度のAIツールで、モニタリング記録の作成時間を月10時間以上削減できれば、投資対効果は十分に見合います。
主要な介護ソフト(ワイズマン、ほのぼの、カイポケ等)は、API連携やCSVデータの入出力に対応しているものが増えています。ただし、連携の範囲はソフトごとに異なるため、導入前に既存ソフトとの互換性を確認することが重要です。介護ソフトの更新タイミングに合わせてAI機能が搭載されたプランにアップグレードする方法もあります。
まずは「モニタリング記録の音声入力」など、日常業務の延長線上にある機能から始めるのが効果的です。スマートフォンに話しかけるだけで記録のドラフトができる体験は、AIに対する心理的ハードルを大きく下げます。全員に一度に導入するのではなく、まず1〜2名のケアマネジャーに試験的に使ってもらい、効果を実感した上で事業所全体に展開するステップが推奨です。
なくなりません。AIが効率化するのは「書類作成」「情報整理」「スケジュール調整」といった定型的な事務作業です。利用者のアセスメント、課題の見立て、多職種との合意形成、利用者・家族との信頼関係の構築──これらのケアマネジャーの中核的な専門業務は、AIに代替できるものではありません。むしろ、事務作業から解放されることで、こうした専門業務に集中できる環境が整います。









