


大手IT企業、Sansan、HubSpot Japanを経て2024年に株式会社UniteXを創業。数百社のCRM導入・業務設計を経験する中で「ツール導入だけでは組織は変わらない」という課題に直面し、AI×業務プロセス最適化サービス「AI Flow」を立ち上げ。業務理解・ビジネス理解・CRM・AIの4軸で、企業の業務プロセスそのものを再設計する支援を行っている。
「倉庫にWMSを入れたが、結局Excelとハンディの二重入力が残っている」
「荷主から新しい入出荷データの提出を求められたが、社内の基幹から取り出せない」
「ECの物量が増えた分、ピッキング人員だけが膨らんでいる」
物流事業者の経営層から聞かれる課題です。
EC拡大による小口多頻度化、荷主側のシステム高度化、人手不足——物流業では 「ツールはあるのに現場が楽にならない」 という課題が広く見られます。
この記事は、WMSや基幹を導入済みで、期待した効果が得られていない物流事業者 に向けた、AI化の実践ガイドです。結論から言えば、AI化は「ツール導入」から始めると、想定通りの効果が得られないケースが多く見られます。出発点は業務棚卸しです。
この記事では、物流事業者の経営層に向けて、業務棚卸しの具体的な進め方、「人がやるべき業務」と「生成AIで対応できる業務」の見極め、そして最初に着手すべき業務TOP3 までを、UniteXが提供するAI Flowサービスの考え方に沿って解説します。
① EC拡大で小口多頻度化、1出荷あたりの作業負荷が増大
宅配個数は10年で約1.6倍。一方で1件あたりの売上は伸び悩み、1出荷あたりの作業工数は減らないまま、単価が下がる構造になっています。
② 荷主側のシステム高度化で、データ提出要求が激化
大手チェーン・EC事業者の荷主は、SCM・在庫最適化の観点から 「リアルタイムの在庫・出荷・配送データ」 を求めるようになりました。荷主指定のWeb-EDI・API連携に対応できない物流事業者は、新規取引の土俵に乗れない状況が生まれつつあります。
③ 倉庫作業員の採用難、人件費の上昇
物流施設労働者の有効求人倍率は全国平均の1.5倍以上。時給は2020年比で約20%上昇。人を増やして物量に対応する ことが構造的にできなくなっています。
物流事業者の多くが既にWMSを導入していますが、現場の体感としては業務負荷が下がっていないという声があります。原因は明確で、WMSの機能が業務と合っていない/使いこなせていない/データがサイロ化している——この3つです。
AI化は、WMSをリプレイスすることではなく、既にあるWMSに眠っているデータを活かし、人が手作業でつなげている領域をAIに任せる ことから始まります。
物流業のAI化相談で最も多いのが「今のWMSから他のWMSに乗り換えたい」「自社開発の基幹を全部作り直したい」というリプレイス相談です。
リプレイスから入ると課題が残りやすい理由は3つあります。
UniteXが提供する AI Flow は、次の3段階で構成されます。
「新しいWMSの導入」を起点にするのではなく、「業務プロセスを整理し、人が担う必要のない業務をAIに任せる領域を特定する」という順序を推奨しています。
業務棚卸しは次の5ステップで進めます。
物流事業者の場合、次の6部門で業務を洗い出します。
| 部門 | 代表的な業務 |
|---|---|
| 入出荷・検品 | 入荷検品、荷受、棚入れ、出荷検品、梱包、送り状発行 |
| 在庫・保管管理 | 在庫確認、棚卸、ロケーション管理、賞味期限・ロット管理 |
| ピッキング・仕分 | オーダー受付、ピッキング指示、仕分、補充 |
| バース・配車連携 | トラック受付、バース予約、積込指示、運送会社連絡 |
| 荷主対応・EDI・請求 | 受注取込、在庫レポート提出、月次請求、問い合わせ対応 |
| 経営・データ分析 | 荷主別収支、庫内生産性分析、需要予測、改善提案 |
まずは 主要業務を部門ごとに書き出す ことから始めます。最初は網羅性より、全体像を俯瞰できる粒度で構いません。
書き出した業務ごとに「なぜやるか(目的)」と「何が出るか(成果物)」を書き加えます。
例: 荷主への在庫レポート提出
- 目的: 荷主の在庫補充計画に必要な在庫情報を共有する
- 成果物: Excelの在庫一覧(毎週月曜)
業務の目的を言語化する過程で、そもそも廃止できる業務が特定されることがあります。棚卸しの段階で整理しておく価値があります。
各業務を「判断が中心」か「作業が中心」かに分類します。
例: ピッキング指示
- 判断:欠品時の代替品選定、破損品の処置
- 作業:オーダー一覧を棚順に並び替える、ピッキングリストを印刷する
ベテランが担う業務であっても、純粋な判断のほかに、ルール化できる作業が少なからず含まれています。
作業業務から、次の条件に当てはまるものを抽出します。
物流業で典型的なのはこれらです。
抽出した業務を、次の3択で分類します。
分類の詳細は第5章で解説します。
物流業で 生成AIを活かせる業務 を5領域に整理しました。どの領域にも、「人がやるべき判断」と「生成AIが担える文書・分析業務」が混在しています。この混在を 業務棚卸しで仕分ける のがAI化の起点です。
| 業務 | 判断区分 |
|---|---|
| 荷主との契約交渉・条件調整 | 人がやる |
| クレーム・重大事案の一次対応 | 人がやる |
| 問い合わせ回答のテンプレート整備 | 生成AIで対応可 |
| 荷主別マニュアル・ルールの整備 | 生成AIで対応可 |
| 定例会議の議事録整形・要約 | 生成AIで対応可 |
| 新規荷主への提案書・見積書のドラフト | 生成AIで対応可 |
| 荷主向け報告書(在庫・出荷状況)の文章化 | 生成AIで対応可 |
現場の実態: 荷主ごとに仕様・書式・連絡ルールが異なるため、対応マニュアルが属人化 しているケースが多く見られます。判断業務は人が担いつつ、マニュアル整備・報告書・定型メールの下書きを生成AIで巻き取る と、現場責任者の工数が軽減する余地があります。
| 業務 | 判断区分 |
|---|---|
| 欠品時の代替品判断・現場の例外対応 | 人がやる |
| 緊急便・特殊便の手配判断 | 人がやる |
| 作業手順書(SOP)のドラフト作成 | 生成AIで対応可 |
| 新人向け教育資料・安全教育マニュアルの整備 | 生成AIで対応可 |
| 改善提案(KAIZEN・5S)の文書化 | 生成AIで対応可 |
| 庫内巡回記録・日次報告の要約 | 生成AIで対応可 |
| 社内通達・シフト周知文の整形 | 生成AIで対応可 |
現場の実態: 現場のベテランが暗黙知として持つノウハウは、文書化されていないことが多い領域です。ヒアリング内容を生成AIに渡すことで、SOP(標準作業手順書)や教育資料のドラフトを短時間で作成できます。更新頻度を上げることでナレッジの陳腐化を防げます。
| 業務 | 判断区分 |
|---|---|
| 月次締め・請求関連の最終チェック | 人がやる |
| 月次締め通知・請求前文・注記の下書き | 生成AIで対応可 |
| 経費精算の申請書下書き・仕訳メモの文章化 | 生成AIで対応可 |
| Excel データの整形・クレンジング補助 | 生成AIで対応可 |
| 社内規程・就業規則の改定案ドラフト | 生成AIで対応可 |
| 法令・業界規制の要点整理(2024年問題等) | 生成AIで対応可 |
| 社内FAQ・ナレッジベースの整備 | 生成AIで対応可 |
現場の実態: WMS・会計・勤怠の本体SaaSの外側にある「文書の仕事」は、物流事業者でも業務時間の一定割合を占めます。生成AIで下書きを作り、人がチェックする運用に切り替えるのが現実的です。
| 業務 | 判断区分 |
|---|---|
| 面接・合否判定 | 人がやる |
| 求人票・採用PR・募集記事の作成 | 生成AIで対応可 |
| 書類選考の一次要約・スコアリング | 生成AIで対応可 |
| 面接質問リストの作成 | 生成AIで対応可 |
| 新人OJTチェックリスト・教育マニュアル整備 | 生成AIで対応可 |
| 評価面談のアジェンダ・評価コメント整形 | 生成AIで対応可 |
| 安全教育・庫内ルールの研修資料作成 | 生成AIで対応可 |
現場の実態: 倉庫作業員の採用は継続的な課題で、教育資料・現場別マニュアル・評価資料の整備は重要な業務です。生成AIで下書きを作成することで、整備のスピードを上げられます。
| 業務 | 判断区分 |
|---|---|
| 経営判断(投資・撤退・荷主契約) | 人がやる |
| 荷主別・品目別の収支データから示唆抽出 | 生成AIで対応可 |
| 月次経営レポート・役員会資料の文章化 | 生成AIで対応可 |
| 荷主交渉の根拠資料作成 | 生成AIで対応可 |
| 庫内生産性・滞留在庫の分析コメント生成 | 生成AIで対応可 |
| 補助金・融資申請書のドラフト | 生成AIで対応可 |
| 経営の壁打ち・意思決定の整理 | 生成AIで対応可 |
現場の実態: 物流業の経営分析は いまもExcelが中心という会社が大半 。「数字は出るが、そこから何を言うかに時間がかかる」のが多くの経営者の悩みです。数字から示唆を引き出し、文章に落とす 作業は生成AIが最も得意な領域で、経営会議資料・荷主向け報告の質とスピードを改善できます。
業務棚卸しで出てきた各業務は、次の3つに分類して整理します。この分類がAI Flowの出発点になります。
条件: 判断が中心・信頼関係が重要・例外対応が多い
分類の目安: 「暗黙知」「例外」「信頼関係」「最終責任」のどれかに該当する業務は、人が担うべき領域です。
条件: ルール化できる・定型フォーマットがある・文書作業が中心
分類の目安: 「毎回似た内容を書いている」「フォーマットが決まっている」「数字を文章化している」業務は、生成AIで効率化できる余地が大きい領域です。
条件: カメラ・センサー等のハード、または業界特化SaaSでないと実装不可
これらは本記事では解説対象としません。まず分類②の「生成AIで対応可能な業務」からAI化を始め、必要に応じて分類③の専用SaaS導入を並行して検討するのが現実的です。
WMSリプレイスやAI-OCR導入といった大きな投資をしなくても、汎用LLM(ChatGPT・Claude・Gemini)のライセンス契約 だけで、今日から試せる業務は多数あります。比較的低コストで試せるため、業務棚卸しと並行して実務で検証することが可能です。
物流業で生成AIを活用しやすいのは、以下のような事務・文書中心の業務です。
「8割は既存ツールで済む」と言っても、どこから始めるかの目安は必要です。効果が大きく着手しやすい領域を3つに絞りました。
荷主ごとに仕様・ルール・書式が異なるため、マニュアル整備・問い合わせ回答・報告書作成は現場責任者・管理職の業務時間の一定割合を占めます。属人化しやすい領域でもあり、担当者の退職時に対応品質が不安定になるリスクも伴います。
棚卸しでの確認ポイント:過去1ヶ月の荷主対応メール・報告書を振り返り、同じような構成を繰り返している文書 を抽出する。
倉庫現場には 文書化されていないベテランのノウハウ が大量に眠っています。その状態だと、新人教育・評価・改善 のすべてが属人化します。
棚卸しでの確認ポイント:「この業務、誰かが辞めたら詰む」という属人化業務がないか。そこが棚卸しで手をつける優先業務になります。
物流業の経営分析は いまもExcelが中心という会社が大半 で、「数字は出るが、そこから何を読み取って荷主と交渉するかに時間がかかる」という課題がよく聞かれます。
棚卸しでの確認ポイント:経営者・幹部が資料作成に週何時間使っているか。そこを削減して 本来の経営判断・荷主対応の時間に再配分 できます。
以下は、AI化ではなく人が担うべき領域です。
AIは人の判断を補助する役割であり、最終的な意思決定や信頼関係構築は人が担う領域と整理して進めることで、導入後の期待値ギャップを小さくできます。
AI化の対象領域を特定した後の進め方として、90日のマイルストーンを示します。
ポイント: 最初から網羅性を求めず、全体像を把握することを優先する。
ポイント: 全倉庫展開の前に1業務・1倉庫で検証する。影響範囲を限定できる。
ポイント: 導入完了で終わらせず、定着と横展開までを一連の工程として位置付ける。
起こりやすい事象: 半年から1年規模のプロジェクトとなり、その間に人材の負荷が増大。新WMSでも同じ運用課題が再発する。
回避策: WMSはそのまま、業務棚卸しを先にやる。未活用機能の掘り起こしだけで半分の課題は解ける。
起こりやすい事象: 「AI搭載」の文言だけで評価してしまい、契約後に期待した効果が得られない。
回避策: 「この機能で、どの業務の工数がどの程度削減されるのか」を事前に数値で確認する。
起こりやすい事象: 倉庫現場が日々の物量に追われ、AI導入の検討が後回しになる。
回避策: 経営者または倉庫長がプロジェクトオーナーになる。外部パートナーを活用し、現場負担を最小化する。
何が起きるか: 既にあるWMS・EDIの機能を使いこなせないまま、別ツールを買い足して予算を浪費。
回避策: 棚卸し時に、既存ツールの未活用機能の有無を確認する。既存ツールの活用率を上げてから新ツールを検討する。
A. 可能です。作業員が直接AIを操作する必要はありません。業務棚卸しと設定は管理職・本部が担当し、現場オペレーションは従来通りのまま運用できます。AI化の多くは事務・管理業務側で完結します。
A. はい、推奨されるアプローチです。既にあるWMSのデータを活用する のがAI Flowの基本姿勢で、捨てて入れ直す必要はありません。
A. 可能です。ベテランの現場責任者への業務ヒアリング内容を生成AIに渡すことで、マニュアルのドラフトを短時間で作成できます。最終チェックは人が行う前提の運用となります。
A. 変わります。3PLは荷主対応・マニュアル整備の整備が優先となります(荷主ごとに運用が異なるため)。自社倉庫は現場オペレーションの文書化・教育資料整備から着手する方が、効果が出やすい傾向があります。
A. 社内だけで進めると「客観性が保てない」「優先順位が付けられない」課題が出がちです。外部視点を入れると 「そもそもこの業務、要りますよね?」 という根本の問い直しができます。2〜4週間の棚卸しだけでも効果があります。
A. 第7章で解説した優先TOP3(①荷主対応・問い合わせ対応の文書作業、②庫内オペレーションのマニュアル・教育資料整備、③経営レポート・荷主交渉資料の文章化)から始めるのが、効果が見えやすい順序です。
本記事の要点は以下の通りです。
EC拡大・荷主要求の高度化・人手不足への対応として、まず業務棚卸しに着手することが、AI化の起点となります。
業務棚卸しを社内だけで実施する場合、「自社の業務を一覧化する」「判断と作業を分ける」「AI化できる業務を特定する」の3ステップで、客観的な視点と業務設計のノウハウが求められます。









