


大手IT企業、Sansan、HubSpot Japanを経て2024年に株式会社UniteXを創業。数百社のCRM導入・業務設計を経験する中で「ツール導入だけでは組織は変わらない」という課題に直面し、AI×業務プロセス最適化サービス「AI Flow」を立ち上げ。業務理解・ビジネス理解・CRM・AIの4軸で、企業の業務プロセスそのものを再設計する支援を行っている。
「AIで業務を変えたい。でも、自社のどの業務をAI化すべきか、正直よく分からない」
「ツール紹介の記事は読んだが、結局どのツールを入れればいいのか判断できない」
運送会社の経営層から聞かれる声です。
2024年問題、ドライバー不足、燃料高騰、EC拡大による小口多頻度化——運送業界の経営環境は、急速に変化しています。国土交通省・全日本トラック協会が公表しているDX実態調査でも、DX推進の必要性は認識されているものの、取り組みをどこから始めるべきかという論点が残る業界です。
ただし、AI化は「ツール導入」から始めると、想定通りの効果が得られないケースが多く見られます。正解の順序は逆で、まず自社の業務を棚卸しし、「人がやらなくていい仕事」を特定してから、そこにAIやツールを当てる が定石です。
この記事では、運送会社の経営層に向けて、業務棚卸しの具体的な進め方、「人がやるべき業務」と「生成AIで対応できる業務」の見極め、そして最初に着手すべき業務TOP3 までを、UniteXが提供するAI Flowサービスの考え方に沿って解説します。
① 2024年問題で輸送力が14%不足
2024年4月から、トラックドライバーの時間外労働上限が年960時間に規制されました。国交省の推計では、対策を打たない場合、2030年には輸送力が約34%不足する と見込まれています。
② ドライバーの平均年齢49.9歳、若年層の入職が激減
全産業平均が43.7歳に対し、運送業界は約50歳。29歳以下のドライバーは全体の10%未満。採用定着の難しさ、ベテラン退職時の業務継続性が、中小事業者にとって特に大きな課題となっています。
③ EC拡大で小口多頻度化、1件あたり収益は下落
宅配個数は10年で約1.6倍。一方で1件あたりの運賃は伸び悩み、配送効率が収益性に直結する構造が強まっています。
AI化の検討を始めたとき、最初に出てくるのは「配車AIを入れよう」「伝票OCRを検討しよう」といったツール先行の発想です。
ツールから入ると、自社の業務と合わず使われないケース が多く見られます。
UniteXが提供する AI Flow は、次の3段階で構成されます。
「ツール導入」を起点にするのではなく、「業務プロセスを整理し、人が担う必要のない業務をAIに任せる領域を特定する」という順序を推奨しています。
業務棚卸しは以下の5ステップで進めます。
運送会社の場合、以下7部門で業務を洗い出します。
| 部門 | 代表的な業務 |
|---|---|
| 営業・配車 | 受注、配車計画、荷主対応、見積 |
| 運行管理 | 点呼、動態管理、運行指示、遅延対応 |
| ドライバー | 運転、荷積み/荷降ろし、日報記入、伝票受領 |
| 事務 | 請求書発行、経費精算、給与計算、労務管理 |
| 倉庫(併営時) | 入出荷、在庫、ピッキング、検品 |
| 人事・採用 | 採用媒体運用、面接、教育、免許・資格管理 |
| 経営 | 収支分析、荷主別採算、燃料コスト管理、経営会議 |
まずは 主要業務を部門ごとに書き出す ことから始めます。最初は網羅性より、全体像を俯瞰できる粒度で構いません。
書き出した業務それぞれについて、「なぜそれをやっているか(目的)」と「最終的に何が出るのか(成果物)」を書き加えます。
例: 配車計画の作成
- 目的: 翌日の車両・ドライバー・荷物の組み合わせを決める
- 成果物: 配車表(Excelまたはホワイトボード)
「この業務の目的は何か」を言語化する過程で、そもそも廃止できる業務が特定されることがあります。棚卸しの段階で整理しておく価値があります。
各業務を「判断が中心の業務」と「作業が中心の業務」に分けます。
例
- 配車計画の作成 → 「判断」と「作業」が混ざっている業務
- 判断部分:ドライバー間のバランス、荷主との関係、急なトラブル対応
- 作業部分:荷物リストを時間・距離で並べる、最短ルート計算
ここで重要なのは、1つの業務の中でも「判断」と「作業」は混在している という点です。ベテランが担っている業務であっても、純粋な「判断」のほかに、ルール化できる「作業」が少なからず混ざっています。
作業業務の中から、次の条件に当てはまるものを抽出します。
運送業で典型的なのは以下です。
抽出した業務を、次の3択で分類します。
分類の詳細は第5章で解説します。
運送業で 生成AIを活かせる業務 を5領域に整理しました。どの領域にも、「人がやるべき判断」と「生成AIが担える文書・分析業務」が混在しています。この混在を 業務棚卸しで仕分ける のがAI化の起点です。
| 業務 | 判断区分 |
|---|---|
| 配車計画の「判断」(誰にどの荷物を、トラブル対応も) | 人がやる |
| 配車履歴・日報の要約・傾向抽出 | 生成AIで対応可 |
| 遅延時の荷主連絡メールの文案作成 | 生成AIで対応可 |
| ドライバーシフト・休暇調整の草案 | 生成AIで対応可 |
| 運行管理者の指示文・通達の整形 | 生成AIで対応可 |
| 事故・ヒヤリハット報告書のドラフト | 生成AIで対応可 |
現場の実態: LOGISTICS TODAYの2024年調査(n=904)では 64.9%が配車業務の属人化に課題 と回答しています。配車の判断そのものはベテランが担う領域ですが、その前後で発生する日報・連絡メール・報告書などの文書作業は、生成AIで効率化できる領域です。判断業務と文書業務を棚卸しで分離することで、ベテランの時間配分を見直せます。
| 業務 | 判断区分 |
|---|---|
| 受注可否の「判断」(受ける/断る) | 人がやる |
| クレーム・特殊事案の一次対応 | 人がやる |
| 新規荷主への提案書・見積書の下書き | 生成AIで対応可 |
| クレーム一次回答メールの下書き | 生成AIで対応可 |
| 荷主別マニュアル・ルールの整備 | 生成AIで対応可 |
| 運賃交渉の論点整理・根拠資料ドラフト | 生成AIで対応可 |
| 社内周知文・荷主向け案内文の整形 | 生成AIで対応可 |
現場の実態: 国交省調査では「紙・FAX・電話依存」がDX阻害要因の第3位(28.8%)。荷主対応の文書作業は、営業・管理職に集中する傾向があります。判断(受注可否・交渉方針)は人が担い、その周辺の文書・メール・資料作成を生成AIに任せる形が、改善の候補となります。
| 業務 | 判断区分 |
|---|---|
| 2024年問題対応の最終判断(違反リスクの確認) | 人がやる |
| 月次締め通知・請求前文・注記などの定型文書作成 | 生成AIで対応可 |
| 経費精算の申請書下書き・仕訳メモの文章化 | 生成AIで対応可 |
| 社内通達・社内規程・就業規則改定案のドラフト | 生成AIで対応可 |
| Excelデータの整形・クレンジング補助 | 生成AIで対応可 |
| ナレッジ・社内FAQの整備 | 生成AIで対応可 |
| 労基法・改善基準告示のFAQ作成 | 生成AIで対応可 |
現場の実態: 請求書発行そのものは運送業特化TMSで処理されるケースが多いものの、TMSの外側で発生する定型文書・メール・社内案内・規程整備は、依然として事務担当者の業務時間の一定割合を占めます。ここは生成AIで「下書き → 人がチェック」のフローに置き換えやすい領域です。
| 業務 | 判断区分 |
|---|---|
| 面接・合否判定 | 人がやる |
| 求人票・採用PR・社内広報文の作成 | 生成AIで対応可 |
| 書類選考の一次要約・スコアリング | 生成AIで対応可 |
| 面接質問リストの作成 | 生成AIで対応可 |
| 法定12項目の教育資料・クイズのドラフト | 生成AIで対応可 |
| 新人OJTチェックリスト・マニュアル整備 | 生成AIで対応可 |
| 評価面談のアジェンダ・評価文言の整形 | 生成AIで対応可 |
現場の実態: ドライバー不足のなか、採用・育成関連の業務量は増加傾向にあります。求人票改定・教育資料の更新・OJTマニュアル作成などは後回しになりがちな領域ですが、生成AIで下書きを作る運用に切り替えることで、更新負荷を軽減する余地があります。
| 業務 | 判断区分 |
|---|---|
| 経営判断(投資・撤退・荷主契約) | 人がやる |
| 荷主別・車両別の収支データから示唆抽出 | 生成AIで対応可 |
| 月次経営レポート・役員会資料の文章化 | 生成AIで対応可 |
| 運賃交渉の根拠資料作成 | 生成AIで対応可 |
| 燃料コスト・稼働率の分析コメント生成 | 生成AIで対応可 |
| 経営の壁打ち・意思決定の整理 | 生成AIで対応可 |
| 補助金・融資申請書のドラフト | 生成AIで対応可 |
現場の実態: 経営分析は いまもExcelが中心という会社が大半 。「数字は出るが、そこから何を言うかに時間がかかる」という課題がよく聞かれます。生成AIは 数字から示唆を引き出し、文章に落とす のが得意な領域で、経営会議資料・役員会資料のドラフトを効率化できます。
業務棚卸しで出てきた各業務は、次の3つに分類して整理します。この分類がAI Flowの出発点になります。
条件: 判断が中心・信頼関係が重要・例外対応が多い
分類の目安: 「暗黙知」「例外」「信頼関係」「最終責任」のどれかに該当する業務は、人が担うべき領域です。
条件: ルール化できる・定型フォーマットがある・文書作業が中心
分類の目安: 「毎回似た内容を書いている」「フォーマットが決まっている」「数字を文章化している」業務は、生成AIで効率化できる余地が大きい領域です。
条件: カメラ・センサー等のハード、または業界特化SaaSでないと実装不可
これらは本記事では解説対象としません。まず分類②の「生成AIで対応可能な業務」からAI化を始め、必要に応じて分類③の専用SaaS導入を並行して検討するのが現実的です。
専用のSaaSを入れなくても、汎用LLM(ChatGPT・Claude・Gemini)のライセンス契約 だけで、今日から試せる業務は多数あります。比較的低コストで試せるため、業務棚卸しと並行して実務で検証することが可能です。
運送会社で生成AIを活用しやすいのは、以下のような文書中心の業務です。
分類②の「生成AIで対応可能な業務」のなかから、効果が見えやすく運用に乗りやすい業務を3つに絞りました。UniteXがAI Flowで最初に着手する業務にあたります。
遅延連絡・値上げ依頼・新規提案書など、荷主向けの文書作業は営業・管理職の業務時間の一定割合を占めます。とくに定型パターンが多い連絡は、生成AIでドラフトを作成し人がチェックする運用に置き換えやすい業務です。
棚卸しでの確認ポイント:過去1ヶ月の送信メール・提案書を振り返り、同じような構成を繰り返している文書を抽出する。その領域が最初の自動化対象となります。
ドライバー日報、点呼記録、会議議事録、巡回記録——運送会社では日次の記録・報告の量が多くなりがちです。
棚卸しでの確認ポイント:要約・整形の工数が確保できず、情報が現場に十分展開されていない社内文書が存在しないか。該当文書があれば、生成AIでの要約・整形を検討する対象となります。
経営分析は いまもExcelが中心という会社が大半 。数字は出るが、そこから何を読み取り、どう意思決定につなげるかに時間がかかっています。
棚卸しでの確認ポイント:経営者・幹部の資料作成時間を可視化する。この時間を圧縮できれば、経営判断・現場対応に充てる時間を増やせます。
以下は、AI化ではなく人が担うべき領域です。
AIは人の判断を補助する役割であり、最終的な意思決定や信頼関係構築は人が担う領域と整理して進めることで、導入後の期待値ギャップを小さくできます。
AI化の対象領域を特定した後の進め方として、90日のマイルストーンを示します。
ポイント: 最初から網羅性を求めず、全体像を把握することを優先する。
ポイント: 全社展開の前に1業務で検証する。影響範囲を限定できる。
ポイント: 導入完了で終わらせず、定着と横展開までを一連の工程として位置付ける。
起こりやすい事象: 自社業務との適合性を検証せずに選定し、導入後に使われなくなる。
回避策: 業務棚卸しを先に実施し、ツール選定は後に行う。「どの業務をどう変えるか」を定義してから、それに適合するツールを選定する。
起こりやすい事象: 現場の準備が整わないまま展開され、使われない状態に陥る。
回避策: まず1部署・1業務で成功事例を作る。現場主導の浸透が全社展開の基盤になる。
起こりやすい事象: 現場が本来業務に追われ、AI導入の検討が後回しになる。
回避策: 経営層がプロジェクトオーナーとなり、外部パートナーを活用して現場の負荷を抑える。
起こりやすい事象: 既存ツールの未活用機能を確認せず、別ツールの追加導入により予算が分散する。
回避策: 棚卸し時に「今あるツールで未活用の機能はないか」 を必ずチェック。既存ツールの活用率を上げるのが最優先。
A. 可能です。近年のAIツールはノーコード・ローコードで利用できるものが増えています。社内リソースが限られる場合は、業務棚卸しと導入時のみ外部パートナーを活用する選択肢もあります。
A. 業務の内容が変わる、という理解が適切です。定型的な入力作業・問い合わせ対応はAIが担い、人は顧客対応・営業・改善提案など付加価値の高い業務に時間を振り向けられます。人手不足の業界では、業務再設計の機会として活用できます。
A. はい、推奨されるアプローチです。既存ツールのデータを活用することがAI Flowの基本方針です。既存ツールを入れ替える必要はありません。
A. 社内だけで進める場合、客観性の確保や優先順位付けが難しくなる傾向があります。外部視点を入れることで、業務そのものの必要性を問い直すような観点が得られます。2〜4週間の棚卸しだけでも、着手方針を整理できます。
A. 第7章で解説した優先TOP3(①荷主対応メール・提案書の下書き、②日報・議事録・社内文書の要約、③経営レポート・運賃交渉資料の文章化)から始めるのが、効果が見えやすい順序です。
本記事の要点は以下の通りです。
2024年問題・ドライバー不足・EC拡大への対応として、まず業務棚卸しに着手することが、AI化の起点となります。
業務棚卸しを社内だけで実施する場合、「自社の業務を一覧化する」「判断と作業を分ける」「AI化できる業務を特定する」の3ステップで、客観的な視点と業務設計のノウハウが求められます。









