

大手IT企業、Sansan、HubSpot Japanを経て2024年に株式会社UniteXを創業。数百社のCRM導入・業務設計を経験する中で「ツール導入だけでは組織は変わらない」という課題に直面し、AI×業務プロセス最適化サービス「AI Flow」を立ち上げ。業務理解・ビジネス理解・CRM・AIの4軸で、企業の業務プロセスそのものを再設計する支援を行っている。
月末の経理部門。請求書の山を前に、1枚ずつ内容を確認し、システムに手入力する。仕訳を切り、上長の承認を待ち、修正が戻ってきてまた入力し直す──。
こうした「手作業地獄」に心当たりはないでしょうか。
経理の現場では、いまだに仕訳の大半が手入力で、月末には数十時間単位の残業が発生している。支援の現場では、そんな声を本当によく聞きます。請求書を紙で回付する運用を続けている会社も、決して少数派ではありません。
先に結論をお伝えします。経理のAI化は、請求書処理・仕訳・経費精算のすべてに同時に手をつけると、まず失敗します。順番は「経費精算 → 請求書の読み取り → 仕訳の自動化」の一択です。理由は、この順に「関わる人数が多く、必要な連携が少ない」から。つまり社内の納得を得やすく、システムをつなぐ工事が軽い順です。
この記事では、経理・バックオフィスの手作業をAIで減らす方法を、業務ごとの分解、着手の順番、投資を回収できるかどうかの見極め方、そして「AIに任せてはいけない部分」まで含めて整理します。ツールの紹介ではなく、自社で判断するための材料としてお読みください。
経理のデジタル化は以前から言われてきましたが、なかなか進まない理由がありました。
理由1:「間違いが許されない」という緊張感。 経理はお金を扱う部門です。1円でもズレれば原因を追わなければなりません。だから「手作業のほうが安心」という感覚が根強くありました。
理由2:業務の流れが部署をまたぐ。 請求書の受け取り、内容確認、承認、仕訳、支払い。この流れは経理だけで完結しません。一部だけをデジタル化しても、前後が紙のままなら効果は限られます。
理由3:法制度への対応で手一杯だった。 電子帳簿保存法とインボイス制度(適格請求書等保存方式)への対応が続き、「まずは法対応」という状況が長く続きました。
ただし、この3つ目は現在では追い風に変わっています。電子帳簿保存法により、電子でやり取りした取引データは電子のまま保存することが求められるようになりました。インボイス制度により、請求書には登録番号や税率ごとの区分が記載されるようになりました。つまり、請求書のデータがそもそも電子で届き、記載項目も揃ってきているということです。読み取って自動処理するための土台が、法制度の側から整えられました。
ここが変わった:以前は「紙をどうデータにするか」が課題でした。今は「電子で届いたデータをどう業務につなぐか」が課題です。同じ自動化でも、出発点がまったく違います。
経理のAI化で最も多い失敗は、いちばん時間がかかっている業務から手をつけることです。時間がかかる業務ほど、たいてい他システムとの連携が必要で、工事が重くなります。結果、半年たっても何も動かない。
そこで、業務ごとに「効果の大きさ」と「始めやすさ」を分けて見ます。
| 業務 | 効果の大きさ | 始めやすさ | 必要な連携 | 関わる人 |
|---|---|---|---|---|
| 経費精算 | 中 | 高い | ほぼ不要(単体で完結する) | 全社員 |
| 請求書の読み取り | 大きい | 中 | 会計システムへの取り込み | 経理担当 |
| 仕訳の自動化 | 大きい | 低い | 会計システムと銀行・カード | 経理担当 |
| 支払いの実行 | 中 | 低い | 銀行、承認の仕組み | 経理・決裁者 |
| 月次の締めと分析 | 大きい | 低い | 上記すべてが前提 | 経理・経営 |
この表から読み取ってほしいのは、経費精算は効果が最大ではないのに、最初にやるべきだということです。理由は、関わる人が全社員だから。「領収書をスマホで撮るだけで終わった」という体験が一度に全員に届きます。この体験があると、次に経理部門だけの改善に予算を通すとき、社内の抵抗がまるで違います。
逆に、月次の締めと分析は効果が最も大きいものの、その前の工程がすべて整っていないと始まりません。いちばん欲しいものが、いちばん最後にしか手に入らない。この構造を理解しておくと、途中で焦らずに済みます。
経理の手作業で最も時間がかかるのが、請求書の処理です。
1枚5分として100枚で約500分、およそ8時間。月末にこれをやりながら他の業務もこなすのですから、残業が増えるのは当然です。
AI-OCR(AIによる文字の読み取り)を使うと、請求書を読み込ませるだけで、次の情報が自動で取り出されます。
取り出されたデータは会計システムに取り込めるため、手入力の手間がほぼなくなります。
| 手入力の場合 | AI読み取りの場合 | |
|---|---|---|
| 1枚あたりの処理時間 | 約5分 | 約30秒(確認のみ) |
| 100枚の処理時間 | 約8時間 | 約50分 |
| 入力ミス | 月に数件は起きる | 読み取り漏れの確認が中心に変わる |
| 登録番号の確認 | 国税庁のサイトで1件ずつ確認 | 照合の仕組みを組み込める |
ここが実務でいちばん大事な話です。AI-OCRの精度は上がりましたが、100%ではありませんし、間違え方に癖があります。次の3か所は、必ず人が見る前提で運用を組んでください。
運用の考え方:「AIが読んだものを人が全部チェックする」では時間が減りません。AIが自信を持てなかった項目だけを人に回す設計にできるかどうかが分かれ目です。ツールを選ぶときは、この「確信度の低い項目を出し分ける機能」があるかを必ず確認してください。
政府が推進しているPEPPOL(ペポル)という電子請求書の国際的な規格が広がれば、請求書の形式が揃います。そうなると、そもそも読み取る必要すらなくなり、データがそのまま会計システムに入る世界に近づきます。今から自動化を進めておくと、その流れにそのまま乗れます。
「この取引は交際費か、会議費か、福利厚生費か」。仕訳の判断に迷った経験は、経理担当なら誰にでもあるはずです。
銀行口座やクレジットカードの明細データを自動で取り込み、過去の仕訳の傾向をもとに、勘定科目を割り当てます。たとえば「○○カフェ 1,650円」という明細があれば、過去に同じような取引が会議費で処理されていれば会議費が提案されます。
主要なクラウド会計サービスは、この自動仕訳の機能を標準で持っています。つまり、仕訳の自動化のために特別なAIツールを別途買う必要は、多くの中小企業にはありません。今使っている会計ソフトの機能を、まだ使い切っていないだけというケースが実際にはかなり多いです。
自動仕訳は万能ではありません。得意と不得意がはっきり分かれます。
| 取引の性質 | 自動化の向き不向き | 理由 |
|---|---|---|
| 毎月ほぼ同じ相手・同じ金額(家賃、通信費、サブスクリプション) | 非常に向く | 過去の処理をそのまま当てはめられる |
| 相手は同じだが金額が変わる(仕入、外注費) | 向く | 科目は固定でき、金額だけ確認すればよい |
| 相手も金額も毎回違う少額の経費 | おおむね向く | 誤りがあっても影響が小さい |
| 会社の判断が入る取引(交際費と会議費の線引き、資産か費用か) | 向かない | 正解が社内の方針で決まるため、過去データから導けない |
| 決算に関わる処理(引当、減価償却、税務調整) | 向かない | 制度の解釈が必要で、間違えたときの影響が大きい |
この線引きを最初に社内で共有しておくと、「AIが間違えた」という話にならずに済みます。向かない領域は最初から人が担当すると決める。それが自動化を長続きさせるコツです。
自動仕訳の本当の価値は、キーボードを打つ時間が減ることよりも、「どの科目だったか」を毎回考え直す時間が減ることにあります。過去の処理が候補として出てくるだけで、判断の迷いと社内への確認が減ります。ここは時間として計りにくいものの、担当者の負担としては非常に大きい部分です。
経費精算は、経理だけでなく社員全員に関わる業務です。だからこそ、最初に手をつける価値があります。
営業から戻った社員が、領収書を1枚ずつ表計算ソフトに転記し、上長の承認をもらい、経理に提出する。この流れに不満のない社員は、まずいません。提出が遅れる、金額が合わない、領収書をなくす。経理にとっても頭痛の種です。
効果は会社の規模で決まります。他社の事例を探すより、自社の数字で試算したほうが確実です。次の式で概算が出ます。
年間の削減時間の目安 = 社員数 × 1人あたりの月間申請時間 × 削減率 × 12か月
たとえば社員30名、1人あたり月15分、削減率を8割と見込むと、30 × 0.25時間 × 0.8 × 12 = 年間72時間。ここに経理側の確認作業の削減分が加わります。
この試算のポイントは、削減率を高く見積もりすぎないことです。実際には、領収書をなくす社員、月末にまとめて出す社員が必ずいます。8割減れば十分に成功と考えるくらいが現実的です。
経費の承認を担当する管理職にとって、1件ずつ社内規程と照らし合わせるのは大きな負担です。ここは自動化の効果が出やすい領域です。
自動で確認できるのは、たとえば次のような項目です。
全件を人が見る必要がなくなり、引っかかった申請だけを判断すればよくなります。
ここで見落とされがちなのが、そもそも社内規程が自動で判定できる形で書かれていないという問題です。「常識の範囲内で」「必要に応じて」といった表現が残っていると、機械には判定できません。
経費精算の自動化に取り組むときは、必ず先に規程を見直してください。金額の上限、対象となる場面、必要な添付書類。この3つを数字と条件で書き直すだけで、自動化できる範囲が大きく広がります。この作業は自動化のための前準備ではなく、それ自体が業務改善です。
「AIで経理の仕事がなくなるのでは」。この不安を持つ方もいるかもしれません。
結論から言えば、中小企業においては人が減る方向にはあまり進みません。理由は単純で、多くの中小企業の経理は、そもそも人が足りていないからです。1〜2名で回している経理部門で作業が減っても、その人がいなくなるわけではなく、これまで手が回らなかった仕事に時間が向くだけです。
手が回らなかった仕事とは、たとえばこういうものです。
| これまでの時間の使い方 | 空いた時間で取り組めること |
|---|---|
| 請求書の入力 | 資金繰りの見通しを毎月更新する |
| 仕訳の作業 | 費用の増減の理由を部門ごとに説明する |
| 経費の確認 | 取引条件(支払サイト、価格)の見直しを提案する |
| 月次の集計 | 締めを早め、経営の判断を前倒しできるようにする |
とくに、月次決算が締まる日を早めることの価値は大きいです。翌月20日に前月の数字が出る会社と、翌月5日に出る会社では、手を打てる速さがまったく違います。作業時間を減らす目的を「残業を減らす」だけに置くと投資が正当化しにくいですが、「締めを2週間早める」に置き換えると、経営としての価値が説明しやすくなります。
では、何から始めるか。冒頭でお伝えした順番を、期間の目安つきで整理します。
なぜ最初か:全社員が効果を感じるため、自動化の成功体験を組織全体で共有できるからです。他システムとの連携がほとんど不要で、止まる要素が少ないのも理由です。
この段階で、あわせて社内規程の見直しをしておきます。前章で触れたとおり、規程が判定できる形になっていないと、次の段階でも足を引っ張ります。
なぜ次か:経理部門の業務時間に直接効くからです。毎月100枚の請求書を処理している会社なら、月7時間以上、年間で80時間以上の削減が見込めます。
ここでの注意点は、読み取ったデータを会計システムに取り込む部分です。ここが手作業のままだと、効果が半減します。導入前に「取り込みまで自動でできるか」を必ず確認してください。
なぜ最後か:既存の会計システムとのつなぎ込みが必要で、いちばん工事が重いからです。Step 1〜2で自動化の経験を積んでからのほうが、社内の判断も速くなります。
3つのステップすべてに共通する、判断の物差しをお伝えします。
| 見るところ | 判断の目安 |
|---|---|
| 月あたりの処理件数 | 請求書が月50枚を下回るなら、読み取りの自動化は急がなくてよい |
| 削減時間の金額換算 | 削減時間 × 時給換算 が、月額費用の3倍を超えるかどうか |
| 回収までの期間 | 初期費用を含めて12か月以内に回収できるか |
| 担当者の人数 | 経理が1名の会社ほど、属人化の解消という別の価値が乗る |
「3倍」を基準に置くのは、想定外の手間が必ず発生するからです。設定、社内への説明、例外への対応。ちょうど元が取れる水準で判断すると、たいてい赤字になります。
経費精算からです。効果が最も大きいのは請求書処理や仕訳ですが、そちらは会計システムとの連携が必要で、準備に時間がかかります。経費精算は単体で完結でき、全社員が効果を実感できるため、社内の合意を得る土台になります。同時に社内規程を判定できる形に整えておくと、次の段階がスムーズになります。
必ずしも変える必要はありません。主要なクラウド会計サービスは自動仕訳の機能を標準で持っており、まずは今のソフトの機能を使い切れているかを確認してください。実際には「機能はあるが設定していない」「銀行口座を連携していない」というケースがかなりあります。ソフトの入れ替えは影響範囲が大きいため、最後の選択肢と考えるのが安全です。
全件を確認する運用にすると、たしかに効果は限定的です。重要なのは、AIが自信を持てなかった項目だけを人に回す設計にすることです。合計金額の突き合わせ、税率ごとの区分、初めての取引先の請求書。この3点を重点的に見て、それ以外は通す。この切り分けができるかどうかで、削減できる時間が数倍変わります。
むしろ相性が良い関係です。電子でやり取りした取引データを電子のまま保存する必要があるため、そもそも紙に印刷して保管する運用が成り立たなくなりました。またインボイス制度により、請求書には登録番号や税率ごとの区分が記載されるようになり、機械で読み取りやすい形に近づいています。法対応をきっかけに自動化まで一気に進めるのが、いちばん無駄がありません。
むしろ効果は大きくなります。1人経理の最大のリスクは、時間ではなく属人化です。その人が休んだら止まる、辞めたら誰も分からない。自動化を進める過程で処理の手順が仕組みとして外に出るため、時間の削減と同時にこのリスクが下がります。金額換算しにくい部分ですが、経営としてはこちらのほうが重要な場合もあります。
あります。会社としての判断が入る仕訳(交際費と会議費の線引き、資産にするか費用にするか)、決算に関わる処理(引当、減価償却、税務調整)、そして取引先との交渉や社内への説明です。これらは正解が過去のデータから導けないか、間違えたときの影響が大きい領域です。最初から人が担当すると決めておくほうが、結果的に自動化がうまく回ります。
ツールの費用は月額数千円から始められるものが多く、金額そのものが障壁になることは少ないのが実情です。実際に効いてくるのは、設定と社内への浸透にかかる時間です。判断の目安としては、削減できる時間を時給換算した金額が、月額費用の3倍を超えるかどうかで見てください。ちょうど元が取れる水準だと、想定外の手間が出た時点で赤字になります。
経理の手作業は、AIで確実に減らせます。ただし、大事なのは「ツールを入れて終わり」ではないということです。
この記事でお伝えした要点を、もう一度整理します。
請求書の入力、仕訳の作業、経費の確認。これらはAIが得意な領域です。一方で、経営判断に関わる分析、例外的な取引の判断、社外とのやり取りは人が担う仕事です。この役割分担を正しく設計できれば、経理部門は「費用のかかる部署」から「経営に数字を出す部署」へ変わっていきます。
自社の業務のどこから手をつけるべきかを一緒に整理したい場合は、AI Flowの業務診断でご相談を受けています。ツールの紹介ではなく、業務の棚卸しから入るのがUniteXのやり方です。
経理だけを切り離して考えるより、会社全体の業務の中で位置づけたほうが、投資の判断がしやすくなります。









