


大手IT企業で3年半にわたり大手企業向け営業に従事した後、Sansan株式会社にて営業・カスタマーサクセスを経験。その後HubSpot Japanに入社し、提案営業として数百社のHubSpot導入を推進。2024年に株式会社UniteXを創業。夫婦ともにHubSpot出身で、家族でHubSpotにフルコミットする体制のもと、九州エリア初のHubSpot Gold Solutions Partner認定を経て、西日本エリア初のPlatinum Solutions Partnerに認定。AI×CRMで企業の事業変革を支援している。
昨日、あるお客様に新商品のメールが届きました。今日はLINEでも同じ商品のお知らせが届きます。明日はSNSで、同じ商品の広告を目にすることになります。
社内では、それぞれ別の担当者が、別のツールで、まじめに仕事をしただけです。誰も間違ったことはしていません。ところが受け取った側からすると、「この会社、しつこいな」という印象だけが残ります。しかもそのお客様は、先月すでにその商品を店舗で買っていたりします。
こうしたすれ違いは、担当者の連携不足が原因ではありません。メールツール、LINE、広告、EC。それぞれが持っている顧客データが分断されていて、「同じ人だ」と認識できていないことが原因です。
だから、いまのメール配信ツールをもっと高機能なものに乗り換えても、この問題は解決しません。必要なのは、道具を変えることではなく、散らばったお客様の情報を1人分にまとめること。この記事では、その考え方である「顧客ID統合」と、HubSpotでの進め方を解説します。
ご自身の会社に当てはまるものを数えてみてください。
3つ以上当てはまった場合、課題は「施策の質」ではなく「顧客データの持ち方」にあります。そしてこの6つの症状は、すべて同じ1つの原因から生まれています。
あなたのお客様である「田中さん」を想像してください。田中さんは1人の人間です。ところが、社内のデータ上ではこうなっています。
どのツールも、田中さんの一面しか知りません。メールツールは田中さんがECで買い物をした事実を知らないし、LINEは田中さんがメールを開いたかどうかを知りません。同じ1人のお客様が、ツールの数だけ「別人」として記録されている。これが顧客IDの分断です。

顧客ID統合とは、複数のツールに分かれて存在する同一顧客のID(メールアドレス・LINE ID・会員番号など)を紐づけて、1人の顧客として管理できるようにすることです。「名寄せ」と呼ばれることもあります。
大事なのは、ツールを1つに集約することが目的ではない、という点です。目的はデータの持ち方を「施策ごと」から「顧客ごと」に変えること。ここが変わると、いま打っている施策の意味が変わります。
法人向けの事業と比べて、消費者向けの事業は分断が起きやすい構造を持っています。理由は4つあります。
1つ目は、接点が増える速さです。実店舗から始まり、EC、メール、LINE、アプリ、SNS広告と、この10年で顧客との接点は何倍にも増えました。増えるたびに、そのツールの中に新しい顧客リストが生まれます。
2つ目は、導入する部署がバラバラなこと。ECは通販部、LINEは販促部、広告は代理店、店舗の会員基盤は店舗運営部。それぞれが自部署に最適なツールを選んだ結果、全体を見る人がいないまま増えていきます。
3つ目は、キャンペーン単位で運用する習慣です。「今回の母の日キャンペーンの対象者リスト」という単位でデータを扱っていると、施策ごとにリストは作られますが、顧客ごとの履歴は積み上がりません。
4つ目は、お客様側の事情です。法人担当者と違い、消費者はメールアドレスを複数持ち、しかも頻繁に変えます。家族で1つのアドレスを共有していることもあります。メールアドレスだけを頼りにすると、同じ人を別人と数えたり、逆に別の人を同じ人とみなしたりする事故が起きます。
顧客IDがつながると何が起きるのか。代表的な4つの場面で見比べてみましょう。
| 場面 | 統合前(ツールがバラバラ) | 統合後(顧客が1人につながる) |
|---|---|---|
| 買い物かごの離脱フォロー | メールを1通送って終わり。開封されなければそれきり | メールが未開封なら、翌日LINEで追いかける。チャネルをまたいだ流れが組める |
| クーポン配布 | 店舗で購入済みのお客様にも「初回限定クーポン」が届いてしまう | 購入履歴のある方を自動で除外。既存のお客様には別の特典を出し分けられる |
| 広告配信 | すでにお客様になった方にも新規獲得広告を出し続け、広告費が漏れる | 顧客リストを広告媒体に連携して配信対象から除外。浮いた予算を新規に回せる |
| 効果測定 | 「このメールの開封率」「この広告の獲得数」など、施策単位の数字しか見えない | 「このお客様は年間いくら買ってくれているか」という顧客単位で施策を評価できる |
注目していただきたいのは、新しい施策を1つも増やしていないことです。いまある施策の「つながっていない部分」がつながるだけで、同じ予算・同じ人員のまま、成果の出方が変わります。とくに効果が見えやすい3つを、もう少し詳しく見ていきます。
かごに商品を入れたまま離脱したお客様に、リマインドのメールを送る。これはすでに多くの会社が実施しています。ただ、メールの開封率が2割だとすると、残りの8割には何も届いていないのと同じです。
顧客IDが統合されていれば、「メールを送って24時間開封がなければ、LINEでお知らせする」という流れが組めます。LINEは開封率が高い代わりに送りすぎると嫌われるチャネルなので、メールで届かなかった人にだけ使うという設計ができるのは大きな違いです。同じ人だと分かっているからこそ、チャネルの使い分けが成立します。
新規獲得の広告に、すでに顧客になった方が含まれている。これは分断が起きている会社でほぼ必ず発生しています。しかも購入直後の方ほど広告に反応しやすいため、「買ったばかりの人に、その商品の新規向け広告を出し続ける」という無駄が生まれます。
HubSpotでは、条件で絞り込んだ顧客のまとまりを広告用のリストとして作り、Facebook(Instagramを含む)・Google・LinkedInの各広告と連携できます。Facebook広告では、このリストを除外対象として指定できるため、既存のお客様を配信から外せます。なお、この顧客リストを使った広告連携はMarketing Hubの有料プラン(Starter以上)の機能で、媒体ごとに配信できる最少人数も決まっています(Facebookは20人以上、LinkedInは300人以上、Google検索・YouTubeは直近30日で1,000人以上)。
「今回のキャンペーンで売上◯◯万円」という見方だけをしていると、値引きを重ねるほど数字は良く見えます。ところが顧客単位で見ると、値引きのときしか買わないお客様ばかりが増えている、という事態が起きます。
顧客IDが1つにまとまると、「このお客様は1年間で何回、いくら買ってくださったか」が分かります。ここで初めて、LTV(顧客生涯価値)という考え方が実務で使えるようになります。どの入口から入ったお客様が長く続くのかが分かれば、広告予算の配分先も変わってきます。
顧客ID統合というと、CDP(顧客データ基盤)のような大がかりな仕組みを思い浮かべる方も多いのですが、多くのB2C企業にとって、最初の一歩にそこまでの投資は必要ありません。
HubSpotをおすすめする理由は1つに絞れます。顧客データベースと、施策の実行機能(メール・フォーム・広告連携・自動化)が最初から一体になっていることです。
データ基盤と施策ツールが別々だと、「統合はできたけれど、施策に使うにはまた連携の開発が必要」という二度手間が起こりがちです。HubSpotの場合、顧客の記録に情報が集まった瞬間から、その条件で対象者を絞り込み、メールを送り、広告のリストに連携できます。統合したデータをすぐ施策に使える。この距離の近さが、B2CでHubSpotを選ぶ最大の理由です。
進め方に入る前に、HubSpotがどうやって同一人物を判定しているかを押さえておくと、この後の設計がぐっと分かりやすくなります。
HubSpotは、メールアドレスが同じコンタクト(顧客の記録)を、自動的に同一人物として扱います。同じアドレスで再度フォームを送信しても、新しい記録は作られず、既存の記録が更新されます。会社の記録の場合は、会社のドメイン名が同じ役割を果たします。
つまり、メールアドレスさえ揃っていれば、統合の土台はすでに用意されているということです。
もう1つ、B2Cで効いてくる仕組みがあります。HubSpotはサイトを訪れた人に識別用のクッキー(hubspotutk、有効期限は6か月)を発行し、まだ名前も分からない段階から行動を記録しています。
その人が後日フォームからメールアドレスを送信した瞬間、それまでの閲覧履歴がその方の記録に結びつきます。「問い合わせの前に、料金ページを3回見ていた」といった情報が後から見えるようになるのは、この仕組みがあるからです。
とはいえ、先ほど触れたとおり、B2Cはメールアドレスが揺れやすい領域です。そこで使えるのが、一意の値プロパティという設定です。会員番号や顧客コードのような「絶対に重複しない自社の番号」を入れる項目を作り、同じ値が二重に登録されないようにできます。
実務で気をつけたいのは、次の3点です。
3つ目がとくに重要です。「とりあえずデータを入れてから考えよう」と進めると、後戻りできなくなります。加えて、ワークフローによる更新や旧来のフォームからの登録では、この一意性のチェックが働かない点にも注意が必要です。だからこそ、軸になるIDの設計は最初にやる必要があります。
「うちのデータは散らかっているから大変そう」と感じるかもしれません。ただ、進め方自体はシンプルです。

まず、顧客データを持っているツールをすべて書き出します。メール配信ツール、LINE、ECの会員基盤、店舗のポイント会員、予約システム、営業担当が持っているExcelの名簿も対象です。
このとき、ツール名だけでなく次の5つを一覧にしてください。
| 確認する項目 | 何を書くか |
|---|---|
| ツール名 | メール配信、LINE、ECカート、店舗会員など |
| 件数 | おおよその登録件数 |
| 識別キー | 何でお客様を見分けているか(メール・電話番号・会員番号など) |
| 更新のされ方 | 誰がいつ更新するか。自動か手作業か |
| 持ち出せるか | CSV出力やAPI連携ができるか |
この1枚ができると、「同じお客様が何ヶ所に、何通りのIDで存在しているか」が具体的に見えてきます。ここまでは社内の情報だけで、今週からでも始められます。
次に「どのIDを軸にして1人にまとめるか」を決めます。B2Cではメールアドレスを基本の軸にしつつ、ECの会員番号のような社内共通のIDを補助の軸にする形が定番です。前の章で触れた一意の値プロパティを使うのは、この補助の軸にあたります。
軸が決まったら、各ツールのデータをHubSpotへ連携します。主要なECカートやLINE連携の仕組みは既製の連携部品が用意されており、ゼロから開発しなくても始められる場合がほとんどです。
このステップで決めておきたいのが、どのツールの情報を「正」とするかです。たとえば住所が店舗会員とECで違っていた場合、どちらを優先するのか。決めずに流し込むと、後からどちらが正しいのか誰にも分からなくなります。
データが集まったら、重複したお客様の記録を統合(マージ)します。HubSpotには重複の候補を一覧で確認できる機能があり、ここで1件ずつ、あるいはまとめて処理していきます。この重複管理の機能はProfessional以上のプランで使え、一括での処理やルールの作り込みにはData Hubの上位プランが必要です。
ここで最も重要な注意点をお伝えします。マージは取り消せません。 実際の挙動は次のとおりです。
そのため、どちらを主として残すかの判断基準を先に決め、担当者による判断のばらつきをなくしてから着手してください。
整理が終わったら、いよいよ施策のつなぎ直しです。最初から全部やる必要はありません。「買い物かご離脱のメールとLINEの連携」のように、効果の見えやすい流れを1つ選んで動かし、成果を確かめながら広げていくのが定石です。「統合したから実現できた施策」が1つ動くと、社内の空気が変わります。ここまでを最初のゴールにしてください。
支援の現場でよく見かける、つまずきの型を挙げておきます。
1. 全部を一度に統合しようとする
すべてのツール、すべての履歴を一度につなごうとすると、設計が終わらないまま半年が過ぎます。まず「メールとECの購入履歴」など2つに絞って動かし、成果を見てから広げてください。
2. 軸になるIDの設計を後回しにする
一意の値プロパティは、項目を作るときにしか設定できません。「まずデータを入れて、あとで整える」は、この領域では通用しない進め方です。
3. マージを誰でもできる状態にする
取り消せない操作を、権限の制限なく全員が実行できる状態は危険です。担当者を絞り、判断基準を文書にしてください。
4. 新しいデータが入る「入口」のルールを決めていない
既存の重複をきれいにしても、フォーム・LINE・店舗という入口の入力ルールが変わらなければ、重複は同じ速さで再生産されます。統合とセットで入口の設計を見直してください。
5. 統合そのものが目的になる
データがきれいになっても、施策が変わらなければ売上は変わりません。「統合したら、まずこの施策を動かす」を先に決めておくことが、社内の推進力になります。
よくいただく質問なので、目安をお伝えします。
期間を左右するのは、データの量よりもツールの数と、識別キーが揃っているかです。2〜3のツールを統合し、最初の施策をつなぐところまでで、2〜3ヶ月程度が一つの目安になります。会員基盤が独自開発で連携部品がない場合や、店舗のデータが紙・Excel中心の場合は、ここに準備の期間が加わります。
費用は「HubSpotの利用料」と「設計・連携の構築費用」の合計で考えてください。前者は必要な機能によって変わります(顧客リストを使った広告連携のようにMarketing Hubの有料プランが必要な機能、重複管理の一括処理のようにData Hubの上位プランが必要な機能があります)。後者は、最初の設計と連携構築だけ外部に任せ、日常の運用は社内で回すという分担が、多くの会社にとって現実的です。
いいえ、必ずしも入れ替えは必要ありません。顧客ID統合の主役は「データの持ち方」であり、既存のツールをHubSpotとつないで使い続ける構成も可能です。ただし、機能が重なっているツールは統合を機に整理すると、費用の削減につながる場合が多くあります。
期間を左右するのは件数よりツールの数ですが、件数が多いほど重複の件数も増えるため、整理の工程に影響します。HubSpotの重複管理では一度に確認できる候補の件数に上限があり(Data Hub Professionalで5,000ペア、Enterpriseで10,000ペア)、これを超える規模では何回かに分けて処理していく形になります。また、統合前に「もう連絡を取らない休眠のお客様」を仕分けておくと、作業量と月々の費用の両方を抑えられます。
ステップ1の「顧客IDの棚卸し」からです。ツールの一覧と、それぞれの識別キーを書き出すだけなら、社内の情報だけで始められます。この1枚があるだけで、その後の設計の相談が具体的に進みます。
自動ではまとまりません。HubSpotの自動的な重複排除はメールアドレスの一致が基準のため、別のアドレスで登録された同じ方は、別の記録として残ります。会員番号など共通のIDを軸に加えるか、重複の候補を確認して手動で統合する運用が必要です。
戻せません。HubSpotではマージの取り消しができないため、作業前に「どちらを主として残すか」の基準を決めておくことが重要です。どうしても分ける必要が出た場合は、別のメールアドレスで新しい記録を作り直すことになります。
進められます。HubSpotは管理画面の操作性が高く、主要ツールとの既製連携も豊富なため、日常の運用は販促担当の方だけで回している会社が多数です。初期の設計と連携の構築だけ外部の構築会社に任せる、という分担が現実的です。
CDPはデータ統合に特化した基盤で、施策の実行には別のツールとの接続が前提になります。HubSpotはデータベースと施策の実行機能が一体のため、統合したデータをそのまま配信・自動化に使える点が違いです。数十万人規模の会員基盤や複雑な即時連携が必要な場合はCDPが選択肢になりますが、多くのB2C企業はHubSpotで十分に始められます。
統合によって、むしろ安全になります。ツールがバラバラの状態では、配信停止の依頼を各ツールで個別に処理する必要があり、漏れが事故につながります。顧客が1人にまとまっていれば配信許諾の状態も一元管理でき、法令対応の観点でも危険が減ります。
最後に、この記事の要点です。
新しいツールの検討を始める前に、いまあるデータを「1人のお客様」につなぐこと。それがB2Cマーケティングの土台づくりです。UniteXでは、いまお使いのツール構成を伺ったうえで、顧客ID統合の設計と進め方をご提案しています。「うちの場合はどうなるか」を知りたい方は、お気軽にご相談ください。










いまお使いのツール構成を伺ったうえで、顧客ID統合の設計と進め方をご提案します。「まず何から手をつけるべきか」の整理だけでも構いません。元HubSpot社員を中心としたチームが対応します。
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