「この提案書、最新版はどれ?」と毎回チャットで聞いている 辞めた人のフォルダに大事な資料が眠っているらしいが、怖くて触れない 探すより作ったほうが早い気がして、同じような資料を何度も作っている AI活用のご相談で営業部門の方と話すと、ふたを開ければ悩みの半分は「資料が見つからない」だった——この一年、そんな打ち合わせが何度もありました。提案書、見積書、事例資料。どれも会社の財産のはずなのに、共有フォルダの奥で迷子になっています。 資料は、増えることはあっても自然に減ることはありません。 この記事では、散らかった営業資料を片づけて「探す時間」を消す方法を解説します。鍵になるのは、指示するとフォルダの中身を自分で見て動く「エージェント型」と呼ばれるAIです。ChatGPTの画面に一件ずつ貼り付けて聞くやり方とは、できることの規模がまるで違います。 ただし、AIに丸投げすれば片づくわけではありません。人がルールを決め、AIが実行し、人が確認する。この分担を軸に、散らかる原因から道具の選び方、進め方、散らかりを戻さない運用まで、順を追って見ていきます。 営業資料が散らかる3つの要因 まず、なぜ散らかるのかを整理します。散らかり方は会社ごとに違って見えますが、支援の現場で原因をたどると、ほぼ次の3つに行き着きます。 要因1:資料の管理が個人任せになっている Aさんは共有フォルダ、Bさんは自分のドライブ、Cさんはチャットに添付したまま。資料の持ち方が、会社の決まりではなく個人の流儀に任されている状態です。 この状態が一番こたえるのは、人が辞めたときです。本人にしか分からない分け方のフォルダだけが残り、大事な事例資料ごと行方不明になります。「あの資料、たしか〇〇さんが持っていたはず」で止まる仕事、心当たりはないでしょうか。 要因2:置き場所のルールが決まっていない 同じ提案書が、共有フォルダと個人のドライブとチャットに一部ずつ。どれかが更新されると、残りは古いまま生き続けます。どこにあるのが正式版なのか、誰にも決められていないので、探す側は全部の場所を見て回るしかありません。 要因3:フォルダの中が整理されず、ぐちゃぐちゃになっている 置き場所までは決まっていても、その中が無法地帯という会社も多いです。階層の切り方も名前の付け方も人それぞれ。「提案書_final」「提案書_final2」「提案書_final_修正版」が並び、新しい資料はとりあえず空いた場所に置かれていきます。目当てのフォルダにたどり着いても、そこから先で迷子になります。 そして3つの要因が重なった先に、一番大きな損失が待っています。探して見つからないと、人は作るのです。実は隣の部署に同じ業界向けの提案書があったのに、半日かけて一から作り直す。この「見えない作り直し」が、散らかりの本当の代償です。 ポイント:3つの要因はつながっています。管理が個人任せだから置き場所が割れ、置き場所が割れるからフォルダの中も荒れる。どれか一つを直すのではなく、三つまとめて仕組みで受け止める必要があります。 なぜ人力の整理は続かないのか 「今度こそ整理しよう」と決めて、フォルダの決まりを作り、大掃除をした経験がある方は多いと思います。そして数か月後、元に戻っていたことも。 これは担当者の意志が弱いからではありません。構造的に続かないのです。 理由は3つあります。第一に、整理は誰の本業でもないこと。営業の評価は受注で決まり、フォルダをきれいにしても数字にはなりません。忙しくなれば真っ先に後回しになります。第二に、分類には判断が要ること。「この提案書は業界別に置くべきか、商品別に置くべきか」という判断は意外と重く、一件ずつ人がやると必ず息切れします。第三に、ルールを守るより破るほうが速いこと。急いでいるときに命名の決まりを思い出して従うより、とりあえずデスクトップに保存するほうが早い。この小さな近道の積み重ねが、散らかりの正体です。 つまり人力の整理が失敗するのは、「判断の手間」と「続ける根気」を人に求めすぎるから。ここを肩代わりしてくれる存在が、ようやく現れました。 解決策は「エージェント型AI」——指示すると、自分で動く ChatGPTやClaudeの画面にファイルを一件ずつ貼り付けて、「これは何の資料?」と聞く。この方法でも分類はできます。ただ、営業フォルダのファイルは数百件、数千件あります。一件ずつ運んでいたら、AIを使っているのに人が力尽きます。 そこで使いたいのがエージェント型AIです。エージェントとは「代理人」のこと。指示を受けると、フォルダの中身を自分で見て回り、ファイルを開いて読み、名前を変えたり移動したりという作業まで自分で進めるAIを指します。人がファイルをAIに運ぶのではなく、AIがフォルダに入っていく。この向きの違いが、整理の現実味を大きく変えました。 エージェント型AIが資料整理でできることは、大きく4つです。 1. 中身を読んで分類する ファイル名が「新規資料(2)」でも、中身を開けば「製造業向けの、在庫管理の提案書」だと分かります。エージェント型AIはフォルダ全体を読んで回り、「業界・商材・資料の種類」で分類する案を一気に出せます。人がやると一件数分かかる判断が、数百件まとめて下書きになります。 2. 命名を統一する 「日付_種類_相手先」のような決まりを先に伝えれば、中身を読んで「20260415_提案書_製造業A社向け.pptx」といった名前に付け替えられます。一括での付け替えを人がやると丸一日仕事ですが、エージェント型AIなら決まりを一度伝えるだけです。命名ルールが初めて現実に守られるようになります。 3. 重複と古い版を見つける 名前が違っても中身がほぼ同じファイルを、内容の近さから探し出せます。「この5つはほぼ同じ内容。日付が一番新しいのはこれ」という形で候補を挙げさせ、残すものを人が決める。final地獄の解消は、この分担が一番現実的です。 4. 整理を続けられる 一度決めたルールと手順は、そのまま繰り返せます。「先月と同じ点検をして」と頼めば、新しく増えたファイルの分類も、置き間違いの検出も、同じ基準でもう一度やってくれます。人力の整理が挫折してきた「続ける」の部分こそ、エージェント型AIの得意分野です。 ここで一つ、正直にお伝えしたいことがあります。 「AIが全部自動でやってくれる」わけではありません。どんな決まりで整理するかを決めるのは人です。そして「これは残す・これは消す」という最終判断も人の仕事として残ります。人がルールを決め、AIが手を動かし、人が結果を確認する。この分担が崩れると、整理そのものが信用できなくなります。逆にこの分担さえ守れば、人の作業は「ゼロから考える」から「案に丸をつける」に変わります。 項目人力だけルールだけ決めるルール+エージェント型AI 始めるときの手間△ とても重い○ 軽い○ 比較的軽い 分類・命名の負担△ 全部人が判断△ 全部人が判断◎ AIが実行、人は確認 続けやすさ△ 息切れしやすい△ 形骸化しやすい◎ 同じ指示で繰り返せる 道具は3つ——Claude Cowork・Claude Code・Codexの選び方 では、具体的にどのエージェント型AIを使えばいいのか。2026年時点で、営業資料の整理に現実的な候補は次の3つです。 Claude Cowork(クロード コワーク) Anthropic(アンソロピック)社が提供するパソコン用のアプリです。一番の特徴は、エンジニアでなくても使えること。フォルダを渡して「この中を資料の種類別に整理して」「名前の付け方を統一して」と日本語で頼めば、中身を確認しながら作業してくれます。営業部門が自分たちで始める最初の一歩には、これが一番向いています。 Claude Code(クロード コード) 同じくAnthropic社の、より本格的なエージェントです。ターミナル(文字で指示する黒い画面)で動くため、見た目のとっつきにくさはあります。その分、大量ファイルの一括の名前変更・振り分け・重複検出といった作業を、決めたルールで何度でも繰り返し実行できます。IT担当や情報システム部門と組んで、社内の整理の仕組みとして育てたい会社に向いています。 Codex(コーデックス) OpenAI社のエージェントで、役割はClaude Codeに近い位置づけです。ChatGPTをすでに全社で契約している会社なら、契約をまとめられる分、有力な選択肢になります。 項目Claude CoworkClaude CodeCodex 使いやすさ(現場の方向け)◎ 画面から日本語で頼める△ ターミナル操作が必要△ ターミナル操作が必要 できることの幅○ 日常の整理には十分◎ 大量・反復処理に強い◎ 大量・反復処理に強い 向いている会社まず営業部門だけで試したいIT担当と組んで仕組み化したいChatGPTを契約済みで揃えたい 選び方はシンプルで構いません。迷ったらClaude Coworkで小さく始める。整理が回り始めて、対象を全社に広げたくなったら、IT担当と一緒にClaude CodeかCodexで仕組みにする。この順番なら失敗しにくいです。逆に「どれが最強か」の比較検討から入ると、選定だけで数か月が過ぎます。道具選びに時間をかけるより、手元のフォルダ一つで試すほうが、答えは早く出ます。 進め方——全部を一気に整理しない 道具が決まると「よし、共有フォルダを全部やるぞ」となりがちですが、ここが一番の落とし穴です。数千件を一度に対象にすると、エージェント型AIは動き続けられても、結果を確認する人のほうが力尽きます。 先に整理すべきは、全体の2割の「よく使う資料」です。 探す時間の大半は、頻繁に使う一部の資料に集中しています。そこから手をつければ、効果が早く出て、続ける気持ちも保てます。おすすめの手順は次の5段階です。 よく使う資料を洗い出す——直近3か月で実際に使った提案書・見積書・事例を、営業メンバーに挙げてもらいます。多くても数十件のはずです。 置き場所と命名の決まりを先に作る——階層は浅く(2〜3階層まで)、命名は「日付_種類_相手先」など3要素まで。ここを凝りすぎないのが肝心です。業界×商材×フェーズ×担当…と精緻な体系を作り込むと、AIへの指示も人の確認も重くなり、結局回りません。粗く始めて、探しにくい所だけ後から分ける順番が正解です。 エージェント型AIに整理を実行させる——対象フォルダと決まりを伝え、分類・名前の付け替え案・重複候補の一覧を作らせます。Claude Coworkなら「このフォルダの中を、この決まりで整理して。実行前に一覧で見せて」と日本語で頼むだけです。 人が確認して、確定する——一覧に目を通し、丸をつけて確定。ここで「最新版はこれ」という正本を一つに決めます。 古い場所は消さずに「書庫」にする——旧フォルダは削除せず、書き込み禁止の保管場所に移すだけにします。「消して困ったらどうしよう」という不安をなくすと、整理は一気に進みます。辞めた人のフォルダも、まずAIに中身の一覧表を作らせてから、使うものだけ引き上げる形にすると安全です。 もう一つ、始める前に「資料を探すのに1日どれくらいかかっているか」をメンバーに聞いておいてください。数字が残っていれば、整理後の変化が見え、続ける理由になります。 まとめ:「よく使う2割」から始めて、成功の形を小さく作る。残り8割は書庫に移し、必要になったものだけ順次引き上げれば十分です。 散らかりを戻さない運用ルール 整理は一度きりの掃除ではなく、流れをせき止める堤防づくりです。せっかく片づけても、新しい資料が無秩序に流れ込めば数か月で元に戻ります。堤防として効くルールは、実はとても少なくて済みます。 正本は一つ、場所で示す——「正式な最新版は、決められたフォルダにあるものだけ」と決めます。ファイル名に「final」と書くのではなく、置