「導入はしたけれど、結局パイプライン管理(商談の進み具合の管理)にしか使えていない」 「一斉メールを送るだけで、ほかの機能はほとんど手つかず」 「最初の打ち合わせで"やりたい"と話していたことに、まったく追いついていない」 「うちのHubSpot、結局パイプライン管理くらいしか使えていなくて…」。改修のご相談では、こんな声をよく聞きます。 まったく使っていないわけではありません。一部の機能はちゃんと動いている。それでも、導入したときに思い描いていた姿には、ぜんぜん届いていない。いわば、せっかくの仕組みを活かしきれていない状態です。これはめずらしい話ではなく、CRM(顧客管理ツール)を入れた多くの会社が、同じところで足踏みします。 もし心当たりがあっても、落ち込む必要はありません。大事なのは、ここからの見方です。 こうした状態の多くは、道具(ツール)が悪いから起きるわけではありません。入れ方、決め方、毎日の使い方。ほんの少しの掛け違いが積み重なっているだけです。つまり、立て直せます。 そして、たいていの場合ゼロから作り直す必要はありません。いま使えている一部を足がかりにすれば、当初描いた活用へ広げていけます。「もう一度、最初から作り直すしかないのか」とため息をつく前に、この先を読んでみてください。使い方の入門書ではなく、止まりかけた活用をもう一歩前へ進めるための話です。 なぜ一部の機能で止まり、活用が広がらないのか 活用を広げる前に、まず確かめておきたいことがあります。「なぜ、ここで止まったのか」を見極めることです。原因を飛ばして機能だけ足しても、また同じところで止まります。だから、はじめに原因からいきましょう。 活用が一部で止まるのは、特定の製品が悪いからではありません。多くは、入れ方や決め方、毎日の使い方のほうに原因があります。改修の現場でくり返し見てきた「活用が広がらない理由」は、大きく5つに分けられます。自社に当てはまるものがないか、思い浮かべながら読んでみてください。 原因1:当初の目的が、いつのまにか薄れている いちばん多いのがこれです。導入の打ち合わせでは「あれもこれもやりたい」と盛り上がったのに、「結局、何を実現したかったのか」が日々の現場で薄れてしまう。当面回っているパイプライン管理だけが残り、ほかの「やりたかったこと」は誰の頭からも抜け落ちていきます。 ある会社では「商談から受注後のフォローまで一気通貫で見たい」と話していたのに、半年後にはパイプライン管理だけが習慣として残っていました。やりたかったことが宙に浮いたまま、誰も次に進めていなかったのです。目的を思い出す機会がないと、活用は最初の一歩で止まります。 原因2:項目や設計が現場に合わず、広げられない 導入時に決めた入力項目(HubSpotではプロパティと呼びます)や、営業の段階分け。これが現場の実態と少しずつズレていると、使える範囲の外へ踏み出すたびに小さな違和感が出てきます。 「この機能を使いたいが、今の項目のままだと噛み合わない」「段階の区切りが、うちの売り方と合っていない」。一つ広げるたびに手直しが必要だと分かると、人は新しい活用に手を伸ばさなくなります。結果として、いちばん無難な一部だけを使い続けることになります。 原因3:入力や活用の見返りが、見えていない 人が新しい使い方に踏み出すのは、そこに見返りがあるときです。ところが多くの現場で、機能を増やしても自分の仕事が楽になる実感がわかない状態が起きています。 たとえば一斉メールは送れているのに、その先の「誰が開いたか」「次に何をすべきか」までは活かせていない。手間だけ増えて得るものが見えないなら、人はそこで止まります。「いまのままで十分回っているし」。そう感じた瞬間、活用は広がらなくなります。 原因4:旗振り役がいない 導入を引っ張った担当者が異動や退職でいなくなり、そのあと活用を前へ進める人がいない。これも非常によくあります。誰も「次はこれを使ってみよう」と声をかけず、つまずいても聞ける相手がいない。そうして、今できている範囲のまま、活用は静かに固定されていきます。顧客管理ツールは入れて終わりではなく、活用を育て続ける人がいて初めて広がります。 原因5:項目が乱立し、データを分析できない 運用ルールがないまま設定を進めると、入力項目がどんどん増えていきます。似た項目がいくつも並び、人によって入れる場所が違う。空欄も多い。こうして項目が乱立すると、ためたデータを正しく分析できなくなります。 「メールの反応を見たい」「受注の傾向を知りたい」と思っても、肝心のデータがそろっていなければ集計になりません。分析できないと改善の手がかりもつかめず、活用はますます一部にとどまります。データの土台が崩れていることが、次の一歩を重くしているのです。 活用が広がらないよくある原因5つ: 目的が薄れている:当初やりたかったことが、現場で見えなくなっている 設計が現場に合わない:項目や段階がズレていて、広げにくい 見返りが見えない:機能を増やしても、自分が楽になる実感がない 旗振り役の不在:活用を前へ進める人・聞ける人がいない 項目の乱立:ルールなく項目が増え、データを正しく分析できない いくつ当てはまったでしょうか。ここで大事なのは、これらがどれも直せる原因だということです。HubSpotという道具が悪いわけでも、自社に向いていないわけでもありません。多くの場合、ボタンを一つか二つ掛け違えただけです。次は、活用を広げる前の考え方を整えましょう。 活用を広げる考え方:引き算してから、足し算で広げる 「ここまでしか使えていないなら、いっそ全部リセットして入れ直したほうが早いのでは」。ご相談で最初によく出てくる発想です。気持ちはよく分かります。でも、少し待ってください。 一部しか使えていないHubSpotで、いきなりゼロから作り直すのは、たいてい遠回りです。いま使えている一部は、立派な足がかりです。それを壊さず、活かすところから始めましょう。 「使えていない」のではなく「まだ広がっていない」だけ ここの見方を変えることが、出発点になります。パイプライン管理が回っている、一斉メールが送れている。それは、現場がすでにHubSpotに触れているということです。ゼロから人を動かすより、すでに動いている人の活用を一歩広げるほうが、ずっと楽です。「一部しか使えていない」は、裏を返せば「広げる土台はもうある」ということ。まず、ここを押さえてください。 順番は「引き算 → 足し算」 活用が止まっているHubSpotは、たいてい二つの状態が混じっています。一つは「あれもこれも」と盛りすぎて重くなっている部分。もう一つは「やりたかったのに、まだ手つかず」の部分です。 だから進め方には順番があります。まず、いま使っている部分のつまずきや重さを引き算で取り除く。手元が軽くなって初めて、人は次の一歩に踏み出せます。そのうえで、当初やりたかった活用へ足し算で広げていく。この順番を逆にして、重いまま機能だけ足すと、また同じところで止まります。 一気に全部ではなく、「次の一つ」から広げる 活用のゴールは、すべての機能を一度に使いこなすことではありません。いま使えている一部から、当初やりたかったことへ、一段ずつ近づくことです。最初から100点を狙うと、現場はまた息切れします。目指すのは「無理なく広がる、次の一つ」。まず一段上って、それが根づいてから、また次へ。段階的に育てればいいのです。 まとめ:活用を広げる基本は「全部作り直す」ではなく、「いま使えている一部を足がかりに、まず重さを引き算し、当初やりたかった活用へ段階的に足し算で広げる」こと。目指すのは完璧ではなく、次の一つがまた根づく状態です。 活用を広げる進め方(4つのステップ) 考え方が整ったら、いよいよ進め方です。ここでは、活用支援で実際に踏んでいる流れを、4つのステップに整理してお伝えします。順番がそのまま効き目を左右するので、上から順に見ていきましょう。 ステップ1:現状把握。「何が、どこまで使えているか」を見える化する 最初にやるのは、勢いで機能を足すことではなく、今の状態を冷静に把握することです。手をつける前に、まず地図を広げるイメージです。具体的には、次のあたりを確認します。 どの機能が使えていて、どれが手つかずか:パイプライン管理、メール、一覧表示など、機能ごとの利用状況 当初「やりたい」と話していたことは何だったか:導入時の構想を、もう一度ひっぱり出す データはどんな状態か:情報が古くなっていないか、同じお客様が二重に登録されていないか、空欄や似た項目が増えていないか 現場は何に詰まっているか:これがいちばん大事。実際に使う人に「なぜ、その先に進めていないか」を直接聞く とくに最後の聞き取りは、省かないでください。管理画面の数字だけでは、「広げたいけれど項目が合わなくて止まっている」「そもそも次に何ができるか知らない」といった本当の理由は見えてきません。活用の答えは、たいてい現場の声の中にあります。 ステップ2:目的の定め直し。「次に実現したいこと」を1つに絞る 現状が見えたら、次は目的を定め直します。活用が止まる大きな原因が「当初の目的が薄れていること」だったのを思い出してください。ここを曖昧にしたまま機能だけ足しても、また活かしきれない状態に戻ります。 ポイントは、当初の構想をぜんぶ一度に追わず、「次に実現したいこと」を1つに絞ることです。「一斉メールの先で、反応のあったお客様を自動で拾えるようにする」でも、「商談から受注後のフォローまで一本でつなぐ」でも構いません。大切なのは、現場の人が聞いて「それなら使う意味があるな」と納得できる目的であること。経営の都合だけの目的では、現場はまた手を止めます。 決めた目的は、必ず言葉にして全員で共有しましょう。1行で言い切れるくらい、しぼり込むのが理想です。 ステップ3:引き算で軽くする。広げる前に、つまずきを取り除く 次にやりたい活用が決まっても、いきなり機能を足してはいけません。まず、いま使っている部分の重さやつまずきを取り除きます。ここが、足し算の前にくる引き算です。 使っていない項目を畳む:今の活用で一度も使わない項目は、思いきって任意に回すか外す 段階をシンプルにする:現場の実際の動きに合わせて、商談の段階を整え、名前を分かりやすくする つまずきの元を直す:「広げたいのに噛み合わない」と言われていた設計を、先に手当てする どのくらい軽くするのか、イメージしにくいかもしれません。具体的には、こうです。 商談登録の「重さ」を引き算する例(before → after): before:必須項目が15個。会社名・担当者・予算・検討時期・競合・きっかけと並び、1件の登録に約5分。現場は「あとでまとめて入れる」と先延ばしし、新しい機能を試す余裕などなかった after:当面の目的に必要な5項目(会社名・金額・次の予定・段階・担当)だけ必須に。残りは任意へ。1件の登録が約30秒で終わり、空いた余力で次の活用に手を伸ばせるようになった 引き算は、活用を狭めるためではありません。次の一歩を踏み出す余白をつくるためです。手元が軽くなると、人は自然と「じゃあ、これもやってみるか」と前に進みます。重いまま機能を足しても、誰も触りません。まず軽くする。これが、広げる前の地ならしです。 ステップ4:足し算で広げ、定着させる。「次の一つ」を根づかせる 軽く整え直したら、いよいよ当初やりたかった活用へ、一歩広げる段階です。ここで一気に足さず、ステップ2で絞った「次の一つ」だけを足すのがコツです。 次の機能を一つだけ足す:絞った目的に直結する機能を、まず一つ。全部いっぺんに広げない 一部のチームから始める:全社一斉ではなく、前向きな少人数から。うまくいった事例が、何よりの説得材料になる 見返りを返す:新しい使い方が、その人自身の仕事を楽にす